・ILCEA社は1930年創業、イタリアの革工場(タンナー)
ILCEA(イルチア)社は、1930年代にイタリア北部・トリノで創業した老舗タンナーです。社名は「Industria Lavorazioni Conciarie Ed Affini(皮革加工および関連産業)」の略称で、1952年に現在の名称となりました。
創業以来、フランス・スイス・ポーランドなどヨーロッパ各地の契約牧場から厳選したカーフ原皮を仕入れ、職人の手で一枚一枚、丁寧に仕上げるという姿勢を貫いてきました。
現在はVecchia Toscana SpAグループの傘下に入り、最新の品質管理や環境配慮の技術を取り入れながらも、創業時からの哲学を守り続けています。ILCEA社は、伝統と革新が高次に融合する、まさに「現代のクラシック」と言えるタンナーです。
・ベティス
僕が初めてILCEA社のレザーに感銘を受けたのは、ベティスという名のカーフレザーです。革としての完成度を70%に抑え、製品にしてから着色クリームで塗り重ねていける仕上げ映え満点の素材です。パティーヌと呼ばれる手法でグラデーションに仕上げたり、製品形状に合わせて濃淡をつけたり自由自在に、高品位に手をかけられる素晴らしい素材でした。
アルコールを使って色を抜いたりぼかしたり、色の表現の幅が広く独特な風合いの製品に使われています。
・セタニール
セタニールは、ILCEA社を代表するボックスカーフです。肌目がとても綺麗で整っています。煽り皺は、きめ細かく上品です。やはり製品映えする素材なので、革で見るよりも製品で仕上がったものの方がよく見えます。
製品では、吊り込み、熱ごて、クリーム、ワックス、オイルなど仕上げ工程で肌目を向上させるので、そこでの伸びしろをたくさん持っている素材が優秀なのだと思います。
銀面を擦り落して樹脂コーティングを施したり、きめ細やかな型を入れて一見、平滑性が良いように見せるレザーが圧倒的に多い中、自然の肌目で高品位なセタニールは、素材選びや技術が高い水準にあるといえる素材だと思います。名立たるメンズドレスシューズブランドに多く使われています。
日本の靴職人さんも使っている人は多いと聞いています。
製品の仕上げで、あるいは使っている人の愛着を込めたお手入れで、時間とともに風合いを増していくILCEA社のレザーはとてもお勧めです。
・ラディカ
ラディカは、JOHN LOBBをはじめとした世界的高級メゾンのために開発された、ILCEAを象徴するボックスカーフです。大理石のような独特のマーブル模様は、職人がハンドタンポナート(手作業での染色)技法により一枚ずつ表現。
透明感と奥行きのある色合いは、まさにアートピースのよう。表面はピュアアニリン仕上げで、手入れにより鏡面のような艶が浮かび上がります。
製品としての完成度が高く、靴だけでなくラグジュアリーバッグや財布などの分野でも採用が進んでいます。
グループ体制と生産拠点
Vecchia Toscanaグループは、トスカーナ地方を拠点とする皮革生産の複合体で、原皮の調達から最終仕上げまでを一貫生産で行える体制を持っています。
ILCEA社はその中でトリノに5,000㎡の専用工場を構え、特に仕上げと色表現に特化した工程を担当。精緻な表面加工と深みのある染色は、まさにその強みが活かされる領域です。
まとめ|ILCEAレザーの魅力とは
ILCEA社のレザーには、完成された美と、育てる楽しみが同居しています。
それはまるで「素肌に近い高級素材」に手を加え、持ち主の個性を刻み込むといったイメージです。
自然な美しさを極限まで磨き上げる姿勢は、工業製品とは一線を画し、職人やユーザーとの対話によって初めて完成するものです。
時を重ね、手を加え、深みが増していく…。
ILCEAの革は、ただの素材ではなく“共に時を刻む存在”なのです。
お店で定員さんと素材の話で盛り上がるのも楽しいですね。
By Silvergecko
2025年改定
コメント