革傷は生きていた証
自分が持っているレザー製品を、よく見てみてください。正面の目立つところには入っていないことが多いと思いますが、裏面やパーツ部分、隠れたところに傷が入っていることがあります。牛革や馬革には、ほとんどの場合、生きていた時についた傷や血管の痕があります。


こんな感じです。製品にするときは、なるべくこれらが入らないように裁断するので、私たちの目に触れることは滅多にありません。ほとんどの場合、その部位は破棄されてしまいます。
「食肉の副産物である革を生活に取り入れているのに、破棄されている部分もあったんだ」と知ったとき、少し複雑な気持ちになりました。
傷とは何か
革に見られる「傷」とは、生きていた時に動物の皮膚についた傷が、治ったあとに痕として残ったものです。日常の中でできた擦り傷や引っかき傷だけでなく、時には手術の跡のようなものが見られることもあります。
完成した革の表面にこうした跡が現れると、見慣れない方には欠点のように感じられるかもしれません。しかし、これはその動物が実際に生きていた証でもあり、人工素材にはない天然皮革ならではの表情ともいえます。
もちろん、製品の用途や求める雰囲気によっては避けたい場合もありますが、傷があること自体を一律に悪いものとして考えるのは、少しもったいない見方かもしれません。
焼き印
キズとは少し違いますが、アメリカから輸入した革には「焼き印」(ブランドとも言われています)が入っていることがあります。

これは、牛の持ち主が、自分の牛であることを識別するために付けた印です。複数の牧場の牛が混ざる環境では、誰の牛かを一目で判別するために役立ちますし、盗難防止の意味もあります。アメリカでは、州によっては焼き印が法的な所有の証明に近い意味を持つこともあるそうです。
火傷の跡ですから、当然ずっと残ります。中には2つ以上付いていて、牧場を渡り歩いた歴史を感じるものもあるそうです。形状もアルファベット、数字、ロゴのような図形などさまざまで、同じ付き方のものは2つとありません。
現在では動物福祉の観点から、従来の熱で焼く方法だけでなく、冷却した器具を使う凍結焼印や、電子タグによる管理も広がっています。ただ、物理的な識別としての焼き印は、今でも独特の存在感があります。
染めてみないとわからない傷と血管跡
レザーの工場(タンナー)さんの話では、鞣した時点で革を選別します。スムース仕上げ用、型押し用、内装用、附属用など、用途によって傷の入り具合や穴の有無で判断していきます。
ところが、染めてみると、わずかな傷の凹凸に染料が溜まり、色が濃く見えることが多々あるそうです。染める前には見えなかった傷たちが、そこで初めて表に出てくるわけです。
また、革の表面に筋のように見えるものの中には、血筋や血管跡があります。これも皮の段階では目立たなくても、鞣したあとに銀面に近い部分に見えてくることがあります。見え方には個体差があり、はっきり出るものもあれば、ほとんど気にならないものもあります。
何年も生きてきたのですから、血管跡や少しの治り傷、虫刺され痕、出来物の痕があって当たり前とも言えます。季節によっても差があり、夏の革は牛が活発なので傷や虫刺され痕が多めです。冬は毛が太くなるため毛根も大きくなり、革になっても針で突いたような穴が残る場所があります。これを差し毛といいます。もちろん、これも人と同じで個体差があります。
不良と個性の境目
革に現れる傷、血筋、血管跡、焼き印などは、しばしば「不良」と呼ばれることがあります。ただ実際には、その多くが素材そのものの欠陥というより、その製品の方針に合うかどうかで判断されている場合が少なくありません。
たとえば、均一で整った表情を重視する製品では、少しの血筋や傷でも使いにくいことがあります。反対に、天然皮革らしい表情や素材感を魅力とする製品では、それらが個性として活かされることもあります。
血筋や血管跡をどこまで許容するかによって、実際に使える面積は大きく変わります。つまり、不良と個性の境目は見た目だけで決まるのではなく、求める製品の雰囲気や、想定していた要尺が取れるかどうかによっても変わってくるのです。
今では、「不良」とされる理由の多くが、単に傷があるからではなく、思っていた面積が取れない、使いたい部位が限られる、という現実的な問題につながっていることも多いように思います。
僕が思うこと
僕個人としては、革製品にもっと「生きた証」の部位を入れてほしいと思っています。正面とは言いません。バッグであれば横の部分や裏側、靴であればつま先以外であれば、それほど気にならないことも多いと思います。
その部位が捨てられてしまうことを考えれば、傷や血筋のある部位をもっと積極的に使っている製品があってもいいのではないかと感じます。
生きた証のあるキズの部位。それを生かした製品があれば、私はきっと愛着を持って使いたいと思います。
By Silvergecko



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